そして「まぶしくないね」って言う

夏なのに、あまり夏じゃないから。

だから自分の誕生日を迎えたときも「あれ、誕生日なんだっけ」と拍子抜けした今年。ひんやりした風を避けるように白いパーカを羽織って犬の散歩へ行く。真夏の真昼間にこの犬が散歩に行けるだなんて、もしかしたら彼女が生きているうちでは最初で最後なのかもしれない。あまり夏じゃない夏のしずかな呼吸を肌で感じ、私もあわせて深く呼吸した。

 

露に濡れてぐんと伸びた夏草を犬がどんどん掻き分けていく。私はそこに足を踏み入れたくないから限界までリードを延ばした。彼女との距離は4メートル。振り返る犬、片方だけ立った耳、「こっちに来ないの?」って顔。来ないよって小さく口を動かすと、彼女はふうんと不満を言いたげな表情を一瞬して、またぐんぐんと進んでいった。

盆だから寒いから天気が悪いから、大きな公園に子どもたちの姿はない。彼らの肌は、今年はあんまり焼けないまま夏休みを終えるのだろうか。小学生のころ、夏休みの前とまるで別人というくらい真っ黒に焼けた子たちがたくさんいたものだけど、そんな劇的ビフォーアフターは希少になっていくのかなって、目の前の小石を蹴ってみようとして空振った。

 

犬はときどき振り返る。ちゃんとついてきてる? わたし、牧羊犬なんだから。迷子になっちゃだめよお母ちゃん。あ、あそこにバイク! ちゃんと群れに戻りなさあい。

1時間の探検ももう終わり。また彼女は振り返って、そして「まぶしくないね」って言う。